2021年4月14日水曜日

中城ふみ子


絢爛の牡丹のさなかに置きてみて見劣りもせぬ生涯なりし


淋しくもあるか子ら食む白飯は嫁ぎし日の帯にしあるを


人妻はかかるときにもほほゑみて容崩さぬものとかと泣かゆ


愛憎の入り交じりたるわが膝を枕に何を想へるや夫


水の中根なく漂ふ一本の白き茎なるわれよと思ふ


絢爛の花群のさ中に置きてみて見劣りもせぬ生涯が欲しき


生涯に二人得がたき君故にわが恋心恐れ気もなし


冬の皺よせゐる海よ今少し生きて己の無惨を見むか


救ひなき裸木と雪のここにして乳房喪失の我が声とほる


葉ざくらの記憶かなしむうつ伏せの我の背中はまだ無瑕なり


灯を消してしのびやかに隣に来るものを快楽の如くに今は狎らしつ


この夜額に紋章のごとかがやきて瞬時に消えし口づけのあと


息切れて苦しむこの夜もふるさとに亜麻の花むらさきに充ちてゐるべし


夕ぐれは水の如くに流れたり宗八かれひ香しく焼く

前田夕暮


魂よいづくへ行くや見のこししうら若き日の夢に別れて


君ねむるあはれ女の魂のなげいだされしうつくしさかな


風暗き都会の冬は来りけり帰りて牛乳のつめたきを飲む


沈思よりふと身をおこせば海の如く動揺すなり、入日の赤さ


我がこころの故郷つひにいづかたぞ彼の落日よ裂けよとおもふ


蜜蜂のうなりうづまく日のもとをひっそりとしてわがよぎりたり


ひたむきに空のふかみになきのぼる雲雀をきけば生くることかなし


山蔭に人をいたぶる声きこゆその声石の泣くがに悲し


戦ひに敗れてここに日をへたりはじめて大き欠伸をなしぬ

窪田空穂

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

窪田空穂随筆集 (岩波文庫) [ 窪田空穂 ]
価格:935円(税込、送料無料) (2021/4/14時点)


高山のかこめる空の真中占め五層さやかに深志城立つ


鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか


信濃なる諸友わが歌碑建てしとぞ五月空晴る行きては謝せむ


生きてわれ聴かむ響きかみ棺を深くをさめて土落とす時


つばくらめ飛ぶかと見れば消え去りて空あをあをとはるかなるかな

島木赤彦


夕焼空焦げきはまれる下にして氷らんとする湖のしづけさ


月の下の光さびしみ踊り子のからだくるりとまはりけるかも


ひたぶるに我を見たまふみ顔より涎を垂らし給ふ尊さ


みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ 


信濃路はいつ春ならん夕づく日入りてしまらく黄なる空のいろ 


隣室に書よむ子らの声きけば心に沁みて生きたかりけり

佐藤佐太郎


階くだり来る人あるてひとところ踊場にさす月に顕わる


戦いはそこにあるかと思うまで悲し曇りのはての夕焼け


かぎりなき地の平和よ日もすがら響きをあげて風やみしかば


戦ひのさなかに肉声はひびきけり先年見し映画なりしが


今しばし砲のけむりのしずまりに兵みゆるとき心はたぎつ


シンガポール遂におちぬと夜ふけて雪凍りたる道を帰りぬ

2021年4月13日火曜日

伊藤左千夫

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

野菊の墓改版 他四編 (岩波文庫) [ 伊藤左千夫 ]
価格:660円(税込、送料無料) (2021/4/14時点)


牛飼が歌よむ時に世のなかの新しき歌大いにおこる


人の住む国辺を出でて白波が大地両分けしはてに来にけり


九十九里の波の遠鳴り日の光り青葉の村を一人来にけり

相馬御風

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

【中古】 良寛百考 相馬御風 【古本・古書】
価格:2200円(税込、送料別) (2021/4/14時点)


病みて泣きておもはず合すたなごころ黙示無限のそれか秋の声


闇ぬうてはかなう消えしうす光ふたたび胸によびもどすごと


昨日まで泣きしわれともおもほえず舞ふ袖かろきあめの庭かな

今にしておもへばさらにうつくしし君ありてこそ神も恋ひしか

しるさむにわが名はづかし神の帖ダンテの御名も見出でつる今