晩夏光おとろへし夕酢は立てり一本の瓶の中にて
わがうたにわれの紋章いまだあらずたそがれのごとくかなしみきたる
奔馬ひとつ冬のかすみの奥に消ゆわれのみが累々と子をもてりけり
昼しづかケーキの上の粉ざたう見えざるほどに吹かれつつおり
乱立の針の燦一本の目處より赤き絲垂れており
夕雲に燃え移りたるわがマッチすなはち遠き街炎上す
止血鉗子光れる棚の硝子戸にあぢさゐの花の薄き輪郭
とり落とさば火焔とならむてのひらのひとつ柘榴の重みにし耐ふ
死神はてのひらに赤き球置きて人間と人間のあひを走れり
美しき球の透視をゆめむべくあぢさゐの花あまた咲きたり
あやまちて切りしロザリオ転がりし玉のひとつひとつ皆薔薇
水の音つねにきこゆる小卓に恍惚として乾酪黴びたり
他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水
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